内製テクノロジーで数多の問題を解決。八幡ねじ「整流化」への挑戦

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内製テクノロジーで数多の問題を解決。八幡ねじ「整流化」への挑戦

Text : 結木千尋 / Photo : 山口タクト / Editor : 吹原紗矢佳

名古屋の中心部から車で約45分。愛知県江南市から続く県道を進むと、木曽川を渡すライトブルーの鉄橋が見えてくる。橋を渡った先が岐阜県各務原市だ。

両県境に面する同市は、岐阜市や名古屋市のベッドタウンとして発展してきた。豊かな自然に囲まれた岐阜県第3の人口を誇る都市である。株式会社八幡ねじテクノセンターは、橋を渡り市内に入ってすぐ、木曽川の北岸に建てられた。

株式会社八幡ねじ(以下、八幡ねじ)は、製造メーカー向け締結部品の開発・製造・販売や、一般消費者向けDIY商材の企画・製造・販売を行っている。テクノセンターは、先端システムを導入した同社の大規模物流拠点だ。

八幡ねじは、「整流化」を事業のキーワードに掲げ、必要なテクノロジーを内製で研究・開発してきた。創業70年以上の歴史を持ちながら常に先進的な取り組みを続ける、稀有なメーカーベンダーである。

同社が続ける挑戦は、どのようにして今へとたどり着いたのか。「整流化」への歩みとその現在地を、代表取締役社長・鈴木則之氏に伺った。

倉庫機能の移転で生まれた人手不足の問題

株式会社八幡ねじ 代表取締役社長 鈴木則之氏

2013年、八幡ねじは物理的な問題に直面していた。

北名古屋市にある本社の倉庫がキャパシティオーバーになりつつあり、非効率な運営を余儀なくされていたのだ。事業拡大に合わせて増やした倉庫は、全部で8棟。既に拡張するスペースがない状況だった。

「いっそ広い場所に移動するしかない」そんな考えがテクノセンター建設の前提にありました。しかし、新しく大きな倉庫を構えるにあたり、本社の近くには適当な場所が見つけられず、3〜40分離れたこの場所での建設が決まります。

距離の問題から、熟練の本社のパート勤務の方たち全員の異動は叶わず、人材確保が難しい状況の中、新たな労働力の採用が課題となりました。なお、移転後の本社では副産物として製造拠点を作り、従来のパート勤務の方たちの雇用も確保しました。

近年、製造業のみならず、さまざまな産業で嘆かれる人手不足。業務効率化を目指し、新たな拠点建設を視野に入れる八幡ねじにも、社会課題の波が押し寄せていた。

一方で、同社の扱うねじは金属製の部品で、重量のあるものなら1ケース35kgにもなる。重筋作業には労働者を選んでしまう側面もあった。

並行して、「従来と同じオペレーションで物流業務を行うのか、それとも、テクノロジーを活用して自動化を目指すのか」というテーマでも議論が交わされていきました。

長期的な視点で見たとき、職場環境を健全に保ちつつも極力人手を必要としない仕組みを考えなければ、産業は維持できません。テクノセンターにテクノロジーを導入したのは、言わば必然だったと思います

2016年、八幡ねじテクノセンターは竣工した。受入から出荷までをバーコードで管理し、商品は受注に応じて自動で倉庫から運ばれる。従来、作業員が巡回して行っていたピッキング業務は、必要な商品が目の前までやってくる仕組みへと変わった。

テクノセンターの建設を巡り、業務効率化と人材不足という2つの課題を解決した八幡ねじ。同社の歴史はテクノロジー導入の歴史でもある。一体どのように歩んできたのだろうか。

先代社長が社内に吹き込んだ風

八幡ねじのテクノロジー導入の歴史は古く、1979年まで遡る。鈴木氏の叔父であり、現会長でもある鈴木建吾氏が、創業者のもと、まだ従業員として働いていた時代のことだ。

会長は入社以前に、システムエンジニアとして外部のソフトウェア会社で働いていました。私たちが比較的早くテクノロジーを導入できた背景には、コンピューターに精通する会長の存在があったと思います。

当時、コンピューターは高価で、大企業にしか導入できないものでした。会長は入社した段階から活用したい気持ちを抱えていましたが、価格的にまだ難しいと先送りにしていたようです。

それからしばらくして、コンピューターの価格が徐々に下がり、大企業でなくとも手が届くところまで落ち着いた。

会社の入社から8年後の1979年、事務作業の効率化のために、コンピューターを初めて導入しました。いわゆるオフィスコンピューターと呼ばれるものです。ようやく業務のシステム化が始まりました。

その3年後の1982年には、取引先と相互のオンラインシステムが稼働します。当時はホームセンターとの取引が始まった頃。注文書のやりとりのためにファックスを導入してほしいと、取引先に頼まれていたそうです。しかし、自社には既にコンピューターが導入されているため、ファックスではなくこちらに注文書をいただいた方が都合がいい。取引先にコンピューターにデータを直接送ってもらうことでシステム構築を実現した、と会長から聞いています。

しかし、システム化にあたって不満の声は多くあった。

コンピューターにできないことを指摘する意見は多く挙がったようです。このテクノセンターに自動化システムを取り入れるときも、そういった声はありました。けれど、その全てが不可欠な作業ではありません。現場の意見を大切にしながら、必要なものには適宜自動化への変更を進めるなどの対応をしています。

テクノロジーの導入に意欲を見せる一方で、八幡ねじは現場への理解も大切にしてきた。テクノロジーだけではカバーできない範囲があれば、現場に不便がないよう対応してきたという。そのようにシステムを柔軟に変化させられたのは、同社が内製でテクノロジーの研究・開発をしてきたからだ。なぜ八幡ねじは、他社製のテクノロジーを導入するのではなく、内製化へと進んだのだろうか。

必然だったテクノロジーの内製化

社内にシステム系の部門があったこと、これが直接の理由です。この点にもコンピューター分野に明るい会長の影響がありました。

『これからはコンピューターの時代が来る』そんな確信が父にはあったようです。私たちは1984年にOA機器販売の事業をスタートしました。

OA機器の販売は、導入から運用、保守まで、継続的にサポートする必要があります。そのため、自社でシステムエンジニアを雇わなければなりませんでした。彼らの存在が内製化を後押ししたのだと思います。

1984年に設立されたOA事業部は、1998年に独立・分社化し、株式会社システムワイズ(2014年に八幡ねじへと合併)となった。1999年には子会社であるワイズチャイナを中国で設立。同社はオフショアのソフトウェア開発拠点として現在も稼働中だ。

その上で、内製化にはメリット・デメリットがあると、鈴木氏は語る。

デメリットは、技術が陳腐化しやすい点にあります。会社全体で長期間動く基幹システムの場合、何年も前に開発されたものをずっと保守しなければならない。ITの分野では、20年前に最先端の技術だったとしても、その数年後には時代遅れの技術となってしまいます。20年間、同じシステムの保守だけをし続けたエンジニアは、技術者としての成長が難しくなってしまう。この点は大きなデメリットです。

この問題を解決するため、最近では社外の開発会社からエンジニアを呼び込み、連携をとっているという。技術の活性化にも余念はない。

一方で、メリットも多くあります。スピード感を持って開発へと向かえる点、社内にノウハウを蓄積できる点、システムの柔軟な改善が可能な点が主なところでしょうか。外部の開発会社と共通言語を持てるのも大きいと思います。

社内の反発や内製化のデメリットを、八幡ねじは補いながら、かつ有効に内製化のメリットを活かすことで解決してきた。倉庫機能移転が抱える課題をテクノロジーによって解決しようとした背景には、同社がこれまでの歴史の中で育んできたテクノロジーに対する自信のようなものがあったのかもしれない。

あらゆる業務効率が良化。重筋作業の軽減で得られた副産物

テクノセンターを建設し、物流業務の効率化を目指した八幡ねじの取り組みは、数字として明確に成果を挙げている。

一般的なピッキング業務では、作業時間の半分を歩行に費やしていると言われています。こちらの棚でねじを集めた後、歩いて移動して次の棚で別のねじを集める。そのように繰り返していくと、1時間に行える出荷作業は30件ほど。

このテクノセンターでは、人が巡回するのではなく、作業員の目の前まで自動で商品が運ばれてくる仕組みを作りました。歩行時間がなくなるため、理論上は1時間に60件の出荷が行えることになりますが、実際は1時間に80件、3倍近い業務効率を実現しています。当然、出荷量を維持するために必要な人員は半分以下になりました。

想定以上の効果を挙げた背景には、歩行前後の準備行動まで削減されたことにある。台車を帯同するピッキング業務においては、移動の前後で都度台車をコントロールする必要があった。足を止めて行われるこの作業は歩行時間に含まれない。目の前の作業“だけ”に集中できる環境が予想を上回る成果を生んだ。

商品の受入も全てオンライン化しています。

これまでは入荷後、納品書に基づいて人の手で伝票を打ち込み、その伝票から荷受けデータを作成、このデータと箱の中身を照合して検品を行っていました。

現在は、協力会社から出荷されたタイミングで自動的にリストが作成されるため、中間にあったデータ打ち込みの作業がありません。バーコードをスキャンすれば、納品書と商品を突き合わせられるため、受入でどちらかを探さなければならないケースもなくなりました。効率は170%まで上がっています。

そして何より職場環境の改善に効果があったと、鈴木氏は話す。

テクノロジーの活用によって重筋作業が軽減しました。現在ここで出荷作業を行う労働者のほとんどが女性です。また、外国人労働者の数も増えました。自動化されたピッキング業務では、商品の写真も合わせて表示されるため、日本語の読み書きといった能力が問われません。誰もが同様に働ける環境が整えられた点も、テクノロジー導入の大きな成果だったと思います。

労働者を選ばない環境の構築は、教育コストを最小化することでもある。テクノロジーによる課題の解決は、大きな成果と同時に思わぬ副産物をもたらした。

人にしかできない仕事が必ずある

今後、八幡ねじはさらなる業務効率化を目指す。

現状、人の手で行っている作業をさらに自動化できないかと考えています。人より機械やAIの方が向く仕事がまだあるはずですよね。例えば、在庫管理はそのひとつだと思います。この分野については、3年前から早稲田大学と共同で研究を続けています。

また、既にシステム化している業務を改善していく必要もあるでしょう。残念ながら特殊品については出荷ミスが0ではありません。たとえバーコードをスキャンするだけの作業であったとしても、人がやる以上はどうしてもミスが発生してしまいます。システム面の課題を解決してミスを限りなく0に近づけていくことも、テクノロジーにできることなのではないでしょうか。細かな改善は、内製化する私たちだからこそできる取り組みでもあります。

鈴木氏はそう語る一方で、人の可能性も信じる。

本来、人がやるべき仕事は、創造的なものでなければなりません。今後、私たちはものづくりの企業として、人にしかできない新商品の開発に力を入れていきたいと考えています。

さらに鈴木氏はこう続ける。

私たちの大切な取引先であるホームセンターは今、苦戦を強いられています。狭いエリアにコンビニエンスストア、スーパーマーケット、ドラッグストアといった多くの小売業がひしめき合い、実店舗に限らなければECという選択肢もある。そういう時代にどのようなソリューションを提示していけるか。この点が企業の勝敗を分ける基本要因となります。

取引のある製造業や小売業、さらにはその先にいる消費者にとって、売りやすい、使いやすいと思われる八幡ねじの製品でなければならない。そのために生産性を担保するのがテクノロジーであるならば、創造性を担保していくのは人となるはずです。

八幡ねじの掲げる「整流化」への挑戦は、今後も絶え間なく続いていく。テクノロジーと人が適切に共存する未来へ。鈴木氏の視線は、製造業の目指すべき姿を確実に捉えていた。

ユウキチヒロ。フリーランスライター。 2015年、スポットライトの当たりにくい領域を言葉の力で照らしたいと感じ、ライターを志す。インハウスライターなどを経験後、2018年に独立。これまでにビジネスやテクノロジー、アート、グルメといった幅広いジャンルで、さまざまな記事を執筆している。関心のあるテーマはサブカルチャーなど。

結木千尋

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