精密なタイヤ成型をAIで全自動化。テクノロジーを味方につけたブリヂストンの「次なる景色」とは

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精密なタイヤ成型をAIで全自動化。テクノロジーを味方につけたブリヂストンの「次なる景色」とは

Text : Yuriko Kikuchi / Editor : 佐々木将史

人の手で担ってきた“精密さ”を機械に委ね、グローバル展開を強化する──。

「機械では実現できない」とされてきた成型工程で、AIシステムによる全自動化に成功したタイヤメーカーがある。同市場で世界最大手の企業、株式会社ブリヂストンだ。

安価な海外製品の流通による性能と価格の競争激化、そして技術員の人手不足という二重苦。その中で同社が見出した解決の糸口は、AIを搭載した全自動のタイヤ成型システム「EXAMATION(エクサメーション)」の導入だった。

これまで人の手によって担われてきた工程を自動化したEXAMATIONとは、どのようなシステムなのか。AIの導入に当たってどのような壁が存在したのだろうか。その裏側を、担当者に聞いた。

ブリヂストンが1990年代からIT化に乗り出した理由

そもそもブリヂストンは、早くからIT化戦略をスタートさせていた。タイヤ製造の成型工程における完全自動化を目指し、工場のIT化に着手したのが1990年代後半。2002年にはすでに、部材の加工から検査までの工程を世界で初めて自動化することに成功している。

ブリヂストンがIT化を強力に推し進めた理由は、生産性、品質、コストなどすべての面での競争力を高め、日本からグローバルに展開するためだ。

同社のタイヤはすでに世界最高峰の精密さを誇っていたものの、全ての消費者が最高の品質を求めるわけではない。現に1990年代からは低価格な「アジアタイヤ」なども登場し、ブリヂストンは価格競争にさらされていた。

また同時期、ブリヂストンは人手不足にも悩まされるようになった。当時、同社の高品質なタイヤ成型を支えていたのは、作業工程における人の手。正確さと緻密さが求められる技能員の、スキル継承と人材育成が難航していたのだ。

2つの理由によって作業工程の自動化を進めたものの、AIが普及する前段階でのIT化には困難もあったという。

「工場のあらゆるデータを収集し、製造現場にも経営層にも共有する取り組みを始めていました。しかし、データ量が膨大であるがゆえに、一部の人しか使いこなせていなかったんです」と、同社広報部の大川氏は語る。

この経験は、その後のIT化とAI導入の過程に影響を与えた。「人のスキルに依存しないデータ活用」を目指し、共有だけでなくデータの活用まで実現できる取り組みを始めるきっかけとなった。そうした積み重ねの末に登場したのが、EXAMATIONである。

AIを搭載した最新鋭タイヤ成型システム「EXAMATION」

製造業に活用できるAIがなかった時代からIT化に取り組んできたこともあり、2010年代に入ると、ブリヂストンは工場へのAI導入を積極的に進めていく。同社がEXAMATIONを発表したのは、2016年のことだ。

「EXAMATION」とは、「Evolutional(革命的な)」と「Attractive(魅力的な)」をシナジーさせた「EXA」と、全自動成型機を意味する「Automation」の造語。

これまでブリヂストンが導入してきたITを基盤にAIを実装した、最新鋭のタイヤ成型システムである。グループのフラッグシップ工場である、日本の彦根工場(滋賀県)に導入された。

生産競争力の強化を目標とするEXAMATIONは、「高品質」「高生産性」「スキルレス」をコンセプトに据えて開発が進められた。生産工程などで得られるデータを機械学習させたAI制御機能を持っており、これまで技能員に依存していた高度な技術やノウハウも吸収したアルゴリズムを搭載している。

ブリヂストンの発表によれば、数値が高ければ高いほど性能が向上する「真円性」が、AI導入以前よりも15%向上。品質判断を自動化したことで性能のばらつきが減少し、生産性も2倍になった。

つまりEXAMATIONの活用によって、高性能なタイヤをこれまでより低価格でも販売できるようになる。これらの点が評価され、2018年には株式会社日刊工業新聞社の「スマートファクトリーAWARD 2018」を受賞した。

機械によるデータ解析だけでは補えなかったもの

とはいえ、EXAMATIONの導入で全く問題がなかったわけではない。タイヤの製造工程から得られるデータには限りがあるため、一般的な「ビッグデータ解析」ができなかったのだ。

情報が少なくても、精度の高い結果を出したい。そのために解析されたのが、これまで技術員たちが長年にわたって現場で蓄積してきた知見・技術・ノウハウそのものだった。

EXAMATIONのコンセプトの一つである「スキルレス」が示すのは、人材不足によって難航していた属人的なスキルや技能の継承に関する課題の解消である。だが、人による判断を排除して品質・生産のバラつきを減らすためのEXAMATION導入に際して、社内からの不安や反発はなかったのだろうか。

「むしろ、乗用車用タイヤのフラッグシップ工場である彦根工場に導入したことで、ブリヂストンがテクノロジーによって海外を土俵に勝負していく姿勢が明確になりました。従業員のモチベーションアップに繋がったと思います」と大川氏は語る。

全世界に約180の生産および研究開発拠点を持つブリヂストンの、高品質を求めるストイックな姿勢がうかがえるエピソードであろう。

日本のモノづくりの強みを海外で活かす

「最高の品質で社会に貢献する」というミッションを掲げているブリヂストン。すでに2016年後半にはハンガリーのタタバーニャ工場へ、2017年前半にはロシア工場へとEXAMATIONを展開している。

今後は物流や顧客情報などのバリューチェーン全体をつなぎ、一人ひとりの顧客に対して最適な商品を効率的に開発、生産していくという。その根幹には、価値ある製品やサービスを提供していきたい、ブリヂストンらしい信念が見える。

特設サイト『CHASE YOUR DREAM』より

2016年には、東京オリンピックとも連動する新たなテーマ「一人ひとりを支える2020 そして、あなたと、つぎの景色へ」を発表。モビリティ社会の変化に柔軟に対応しながら、緻密さと高品質を武器に、ワールドワイドの展開へとブリヂストンは挑んでいく。

日本のモノづくりの強みとテクノロジーを掛け合わせて世界進出している同社は、EXAMATIONの先にまだ見ぬ景色を描き始めているのだ。

フリーランスの編集者・ライター。1995年神奈川県生まれ。大学在学中からウェブメディアやメールマガジンのライターを始める。ウェブメディア「灯台もと暮らし」の編集長アシスタントを経て独立。2018年から滋賀県長浜市で活動を開始、東京との二拠点居住中。関心のあるテーマは、地域での暮らしと人生の選択肢。

Yuriko Kikuchi

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