少量多品種の課題は「AI検査機」で解決する──人手不足を乗り越えた新光ゴム工業の次なる“仕事”

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少量多品種の課題は「AI検査機」で解決する──人手不足を乗り越えた新光ゴム工業の次なる“仕事”

Text : なかがわ あすか

黄色のワンマン電車が、初夏の空に映える。心地よいエンジンの重低音を聞きながら、林道に囲まれた三岐鉄道北勢線の終点『阿下喜(あげき)駅』へ。名古屋を出て1時間半——ICカードの利用できない改札で、「470円」と印字された切符を通す。

同駅から車を5分ほど走らせた場所に、新光ゴム工業・北勢工場(三重県いなべ市)はある。会社のロゴマークである赤文字の「NL」を目に建物へ入ると、代表取締役社長を務める林剛右氏が笑顔で迎え入れてくれた。

新光ゴム工業は、今年の10月から自社工場の製造ラインに、品質検査を担うAI設備を導入する。「少量多品種」の生産方針を採る同社は、5年前にも自動の画像検査機を導入しているが、精度や汎用性に改善の余地を感じていたという。

「自分の基準値を上げ、広い視野で物事を見なさい。前職の上司から教わったこの言葉が、今でも活きているなと感じるんです」

そう語る林氏の姿から見えてきたのは、代表者自身の経験も糧にしてより“価値ある仕事”を目指す、新光ゴム工業の揺るぎない決意だった。

同社が目指す“価値ある仕事”とは何か? それを実現するために、テクノロジーはどうアプローチできるのか? 林氏に加え、現場をよく知る佐藤敦氏(製造部 製造四課 課長)の同席のもと、その詳細を伺った。

かさみ続ける検品コスト、集まらない人手

新光ゴム工業株式会社 代表取締役社長 林剛右氏

新光ゴム工業は、林氏の祖父が1955年に設立。父が2代目を勤めたのち、2011年に林氏が継いだ。現在は、自動車の振動や追突した際の衝撃を抑える「防振ゴム」を始め、自動車のドア部分に使用される「ドアチェック」、車体における液体の漏れなどを防ぐ「精密ゴム」などを製造し、年間10億円規模の製品開発を行なっている。

「私たちの会社では汎用品は少なく、お客様である自動車部品メーカーさんごとの要望に沿った商品を提案しています。そのため、見た目は似ているがモノは違う“少量多品種”の生産体制になっているんです」

少量多品種——新光ゴム工業の強みであるとともに、頭を悩ませ続ける根源だ。今回、品質検査AIの導入を推し進めたキーワードでもある。同社が製造する部品は小さいものが多いが、近年は品質チェックが厳しさを増し、どれだけ小さくても全数検品の必要があった。林氏の言葉を借りれば、「検品コストがばかにならない」のだ。

「例えば比較的大きめの部品で、単価が1,500円のものであれば、1個あたりの検品費用が10円かかっても大したことはありません。しかし、実際は単価が数円の部品も多いので、検品費用がごく僅かでも影響が大きいんです」

新光ゴム工業では、月に数百万個も生産する部品もある。多種多様な部品を人の目で検品するのは、相当な労力がかかるのはもちろん、人手も必要になる。だが、パートや内職の採用は、時期によって難航することが多かった。

現場で20年以上働く佐藤氏は、その課題感を人一倍持っていたようだ。

新光ゴム工業株式会社 製造部 製造四課 課長 佐藤敦氏

佐藤「どうしても集まらないときに採用広告を出したことがありましたが、正確性を要求する検査なので、誰でもいいという訳にもいきません。製品納期に関わりますから、人手不足への危機感は強くありました」

「画像検査機」の効果と限界

もちろん、林氏が対策をしていないわけではない。5年前から画像検査機を導入し、一定以上の効果も得ている。

特に人手不足解消にはメリットがあった。約10人で実施していたメイン製品の検品を、現在は1人で担当している。急遽、追加での検品が必要になった場合も対応しやすくなった。

だが、同時に「画像検査機による限界も見えてきた」と佐藤氏は明かす。

佐藤「ゴム部品は黒地なので、不良品か否かの“グレーゾーン”がたくさん見つかるんです。表面に細かなムラがあった場合、目視であれば『傷ではない』と判断できますが、画像検査機では傷とムラの区別ができず……。

基本的にグレーゾーンは不良品に仕分けますが、本当ならば良品であるものもどんどん弾いてしまう。実際は97〜98%が良品にも関わらず、どれだけ調整しても直行率(一度目の検査で良品と判断される製品率)は80%程度が限界でした」

差分の20%は、2回にわたって再検査をかける。それでも1日4〜5万個検査すると、約1万個ほどがハネられる場合もあるという。最終的には、人の目による検査を強いられていたのだ。

佐藤「平日は通常生産分を画像検査機にかけるだけで手一杯なので、再検査は休日に行うこともありました。基本的な人手は削減できていましたが、新たな工数がかかっていたのも事実です」

課題は精度だけでなく、コスト面にもあった。5年前に導入した画像検査機は、いわゆる「専用機」であり、部品ごとに個別の機械を用いる。新たな部品が増えるたびに検査機を増やしたり、システムをアップデートしたりすれば、多額の費用がかかる点もネックに感じていた。

“少量多品種”に対応可能なAI検査機との出会い

それらの課題に光が射したのは、2018年10月。仕事で親交のあった人物から、「新光ゴムさんにぴったりの品質検査機があるんですよ!」と持ちかけられたのが始まりだった。林氏はすぐに詳細を問い合わせた。

AIのアルゴリズムを活用した品質検査機であること、現在の専用機以上の精度が期待できること、1台でいくつもの部品を検査できること——それらの説明を受けた林氏と佐藤氏は、会社にとっても未知の領域である「AI」に大きな可能性を感じたという。

「当初は知識が浅かったものの、説明を聞くなかでAIへの興味や関心、期待値が上がっていくのを感じました。直行率の改善はもちろん、たった1台で多品種を検査できると聞いたときは特に。少しの投資で大きな利益を見込めますし、工場内も稼働スペースは限られているので、この先さらに扱う品種が増えたとしても、場所に困らない点は魅力的でしたね」

では、すぐに導入を決めたのか? そう尋ねると、林氏は「いや、じっくり時間をかけましたよ」と言葉を返し、少し笑いながら佐藤氏のほうを見た。発言のバトンが佐藤氏に渡る。

佐藤「会社としても、僕としても初めてのAIなので、不安な面もたくさんあったし、自分のなかで100%納得できるものを導入したかったんです。数多くのテストを実施し、実用化が見えてきたときもストップを一旦かけて、さらなる要求をしたり……」

「佐藤は現場で毎日何万個の部品を動かしているので、ほんの些細なやりにくさや生産性の観点からも課題を見つけたりするんですよね。ベルトコンベアの細さから、製品を受ける箱の大きさまで全部。僕だけでは絶対に気づけないようなところをカバーしてくれました」

佐藤氏を中心に、綿密な打ち合わせと、現場での入念なシミュレーションを繰り返すこと約半年。現在は会社としても納得のいくAI検査機の仕様がほぼ完成し、2019年10月に導入することが決まった。最初は、試験的に4種類の部品検査から始める予定だ。

テクノロジー導入を推し進めた、社内風土と上司の言葉

人間誰しも、初めて挑戦することには慎重になりがちだ。AI設備の導入に対して躊躇する社員が出てきても不思議ではなかったが、反応は意外にもポジティブだったという。

「“新しいもの好き”が会社に多いんですよ。それに、やり方を変えていかないといつまでも生産効率は上がらず、新しい部品の開発にも本腰を入れられない。皆もそれを感じていたんでしょうね。AIを否定する者はいなかったんです」

また、品質検査AIの導入を後押ししたのは、周りの積極的な姿勢だけではない。新光ゴム工業の代表になる以前の経験が、林氏を奮い立たせていた。

林氏のキャリアは、自動車部品メーカーのアイシン精機で始まる。任されたのは、新車の立ち上げプロジェクトの管理だった。多くの関係者を巻き込みながら「事業の旗を振る」役割は、今の経営に活かせる部分が多い。そしてその実績は、2年間のトヨタ自動車出向へと繋がり、ある人物との出会いをもたらす——。

「親分肌の、とても厳しい上司がいました。よく叱られたのを覚えていますが、その分、教わったこともたくさんあって。今でも強く印象に残っているのは、『自分の基準値を上げろ』ということ。何に対しても『こんなものだろう』と低く見積らず、『自分ならここまではできる』のラインを上げるべきだと。そうすれば、自ずとそこへ向かって頑張れるからと言われましたね」

だからこそ、林氏は「自分の会社はこんなものだろう」と見積もることはない。例えば、新光ゴム工業が今まさに力を入れている製品開発。大手の自動車部品メーカー(Tier1)が製造と開発を平行で行うのはよくある話だが、同社のようなその協力会社(Tier2)にとってはハードルが高く、珍しいことだ。

そうした挑戦を続けるのも、従来の画像検査機による成果に満足せずAI導入を決めたのも、「常に高みを目指せ」と鼓舞された過去があったからなのだろう。

今ないものを生み出し、“価値のある仕事”を創造する

品質検査AIを導入することで、さらなる生産効率アップや人員削減などが実現できれば、会社としての可能性も大きく広がるに違いない。新光ゴム工業は、この先どのようなことを実現していきたいのだろうか?

佐藤「今後の方向性としては、品質により厳しさが求められる製品を増やしていきたいですね。最初はAIが補助的に入り、最終的には人の目に頼らず完全に機械で検品できる状態を目指していきたいです」

一拍置いたのち、林氏が言葉を続ける。

「まずは、少量多品種の生産体制を強化していくこと。将来的には防振ゴムや、気体や液体の漏れを防ぐOリングに力を入れようと思っています。

Oリングは見た目こそ簡素な部品ですが、付加価値が高く、求められる品質も厳しい。種類も多いため、AI検査機1台で全てチェックできるとなれば、生産性とコストの両面で競争力も見込めるのかなと。とはいえ、検査だけ高精度でも意味ないので、部品の材料や成形、仕上げ、バリエーションにもこだわっていきたいですね」

テクノロジーの力を用い、中長期的な成長戦略を描く。なかでも一層こだわりたいのは、製品開発であると林氏は意気込んだ。

「いつでも、お客様が欲しいと望むものを提供したい。それは何より、新しく開発した製品をお渡ししたときに、『これが欲しかったんだよ』と喜んでもらえるのが嬉しいからです。今ないものを創り上げることは、自分たちにとっても単純な価格競争ではない、“価値のある仕事”に繋がると信じています」

自分ならここまではできる、の“ここ”のラインを上げ、そこに向かって改善を重ねる。その姿勢を貫く限り、新光ゴム工業のたゆまない挑戦は続くだろう。

テクノロジーの追い風も味方に、事業の旗は大きくはためく。旗手である林氏の背中は、活気溢れた工場を前にしゃんと伸びていた。

文:なかがわあすか  編集:佐々木将史  写真:山口タクト

フリーライター。1994年生まれ。学生時代に国際交流事業に携わるなかで、スロバキアに興味を持ち、長期留学を決意。その体験記を旅行メディアで執筆し始めたことをきっかけにWEBメディアの魅力を実感。帰国後は名古屋・東京の複数メディアで本格的に執筆を始め、フリーペーパーの営業・編集を経たのち、フリーランスの道へ。執筆領域はビジネス、ライフスタイル、グルメなど。

なかがわ あすか

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