愛知の町工場が開発したIoTシステムが中小企業を救う!愛知「旭鉄工」が生み出す、“やりたい”生産管理

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愛知の町工場が開発したIoTシステムが中小企業を救う!愛知「旭鉄工」が生み出す、“やりたい”生産管理

Text : Yuriko Kikuchi

1941年に創業した製造会社が、現場の生産状況を「見える化」して改善活動を加速するために自社でIoTのシステムを開発したところ、生産効率が飛躍的に上昇して年間2億円以上の労務費削減に成功した。

そんな痛快なエピソードを聞いて足を運んだのは、名古屋駅から電車で1時間ほど南下した海沿いに位置する愛知県碧南市だ。

「人手を増やせないし、IoTのシステムを購入するのも高すぎる。じゃあ自分たちでつくってみようと思って」と開発のきっかけを軽やかに語るのは、i Smart Technologies代表取締役社長の木村哲也氏。

トヨタ自動車で21年間勤務し、トヨタ生産方式の総本山である生産調査部も経験。2013年からは自動車部品の製造会社・旭鉄工に転籍し、2016年に代表取締役社長へ就任。同年に生産ライン遠隔モニタリングサービスを提供するi Smart Technologiesを立ち上げた。出向からシステム外販のための会社設立までに要した時間は、わずか3年半。

「トヨタ自動車に在籍していたから改善できるんでしょう、とよく言われます。でも、そうではありません。

弊社のシステムを導入して5ヶ月以上使っていただいたお客様のデータを分析してみたら、5ヶ月間で平均25%も生産量が増えています。つまり我々だけでなく、どの会社でも同じように生産効率を上げられる。日本の中小企業には、大きな可能性が眠っているんです」

そんなに画期的なシステムなら、外販せずに社内にとどめておく選択もあっただろう。それでも、木村氏が講演のために全国各地を飛び回りながら他社の改善にも力を注ぐ理由は、i Smart Technologiesのミッションである「人には付加価値の高い仕事を」に込められた信念にあった。

トヨタ式の「生産管理板」を書けないジレンマ

旭鉄工は、他社と同様に納品先であるトヨタ自動車から「生産管理板」を導入するよう依頼されていた。

生産管理板とは、ラインの問題点を見える化する改善の道具だ。1時間ごとの生産量、その間における機械の停止時間、停止理由を、手書きで記入していく。

「生産工程での無駄を省くための調査、いわゆる『見える化』に役立つのですね。私も生産調査部の出身ですし確かにその重要性は理解できます。現状がわからなければ改善できませんから。でも、生産管理板を書くのは結構難しいんですよ。作業者に負担が掛かるので、会社によってはこのために社員を1人充てているケースもあります。コストが掛かりますよね。
世間一般の方が想像するほど、生産設備の数値は収集されていないのが実態です。生産数を記録するためにはカウンターを定刻に見に行って数値を確認し、手書きで記録を残すんです。旭鉄工では1人の従業員が4秒で1個生産するラインを10も面倒を見ていたりもします。ラインの間を移動するだけでも大変なのに、1分遅れると数値が15個分ずれてしまう。しかも機械が停止している時間の計測は、置時計か従業員の感覚に頼る。誤差が生じるのも当然です。

それを10ライン分なんて、我々のような町工場ではほとんど不可能。なんとか記録を残せたとしても、データを集めるだけで疲弊してしまいます。生産状況を記録して終わりで、データを活用する余力が残らないんですよ」

現状をきちんと「見える化」したい考えは旭鉄工も同じだ。しかし、データの収集だけでも現場の負担が大きい。出向したばかりの木村氏の前に、ジレンマの壁が立ちはだかっていた。

世にあるシステムでは納得できない。約3ヶ月でプロトタイプを自社開発

木村氏が旭鉄工に出向する前から何度も生産管理板の導入が試みられていたが、うまくいかなかったという。

生産管理板よりも効率的な、あるいは機械化する方法がないだろうか。そう考えはじめた木村氏は、IoTを使ったモニタリングの自動化による生産管理を見出した。早速木村氏はシステム会社や展示会に足を運び、模索した。

「ただ、導入に向けた壁が大きく2つあって。ひとつは旭鉄工にとっては高価なシステムしかないこと。すぐに2千万円、3千万円。ともすれば7千万円から1億円が必要でした。しかも、旭鉄工の設備の50%以上は使用期間が20年を超えていて、最新システムを取り付けられません。

もうひとつが、システムの目的が見える化にとどまっていて、データを活用した改善方法が明確でないこと。これでは我々には物足りないと感じました」

そのような状態で木村氏が見出した唯一の解決策が、「自社でのIoTシステムの開発」だったのだ。

2013年春に旭鉄工への転籍後の年末にはIoTシステムの開発を着想。開発は、物置のような小さな一室からスタートした。2014年春にはプロトタイプが完成し、現場でのデータ収集を開始。およそ3ヶ月でアイデアを形にしたことになる。

「私のバックグラウンドがエンジニアだったのと、不思議なもので困っていると助けてくれる人が現れるんですよね。たまたま手伝ってくれることになった知人と、やりたい人を募集したら手を挙げた社内の若手と、4人ほどのチームで開発をスタートしました。

まずはみんなで秋葉原に行って、IoT開発ができるカードサイズのコンピューターや通信モジュールとその解説本を買ったり、30種類以上センサーを選んだり。自分たちの手に届く範囲から着手したんです」

現場で実験して、現場の意見に耳を傾ける

その後のバージョンアップも、スピード感を持って進められた。試作品をすぐに実験導入できる環境が強みになったからだ。

「机上で良いと思っても現場でダメ出しされることもあります。例えば、データをリアルタイムで閲覧できるモニターを、設備メンテナンス部隊のデスクに置いておいたほうがいいと考えていました。そうしたら、社員から『モニターはいらない』と言われて。確かに彼らは設備メンテナンスのために常に現場へ出ているわけですから、デスクのモニターよりもスマートフォンで見られることのほうが重要だと考えて、データの閲覧方法を変更しました。

机の上で考えていることと、現場でOKが出ることは違います。我々はすぐに現場で試験運用して意見を重視しながら進めたので、現場に則したシステムが完成したんだと思います」

現場に協力を求めながら開発を進めた結果、スタート時点の第1世代から現在使用している第3世代までシステムを発展させてきた。

光センサーやリードスイッチ、シグナルタワーといったシンプルな機器を用いている現在のシステムでは、「サイクルタイム」と呼ばれる部品1つあたりの生産時間、および何らかのトラブルによって生産ラインが停止していた時間を計測している。

稼働時間から停止時間を差し引いてサイクルタイムで割ったものが生産個数になる。ということは生産数を上げるには、サイクルタイムまたは停止時間を短縮できるように試みればいい。シンプルな考え方だ。

生産個数を追求していくことは、収益の増加と労働時間の削減につながる。1時間100個の生産ラインで200個の注文が入った場合、これまでは設備を増設せざるを得なかった。しかし1時間200個の生産が可能になれば、設備投資は不要になるし業務時間も減ることが予想される。

しかも、i Smart Technologiesのシステムなら必要な1ライン当たりの使用料金はスマートフォンの月額使用料金と大差なく、センサーは既存の設備に後付けできるので大掛かりな工事も不要で、多くの場合1時間程度でシステムが稼働する。初期費用は導入台数にもよるが二十万円以下で収まる。最低限の投資で最大限の効果を実現できるのだ。

「我々はIoTシステムから得られた数値を改善に用いています。データから問題点をすくいとり、施策を検討して実行する。そうすると数値に影響が現れるので、そこから新しい改善策を考える。データに基づいた会議を毎日実施しています。

週に1回の会議では不十分です。だって、1週間前のトラブルについて『ここの停止時間には何が発生したの?』と聞かれても、覚えていないのは当然ですよね。でも昨日のことなら現場担当者も覚えていて、今後に役立てられる。

我々のシステムにおいて、『見える化』はメインの機能ではありません。あくまでも手段であって、収集したデータを使っていかに改善できるかにフォーカスしています」

改善のために必要な現状把握は、IoTシステムが24時間365日自動で測定してくれるため、データ収集に人手をかける必要はない。現状把握が即座にできる分、改善も早い。改善に向けて知恵を絞ることに集中できれば、思いもよらないアイデアが出てくる。これが、“人間にしかできない付加価値の高い仕事”だと木村氏は語った。

やらなくてはならないから、“やりたい”生産管理へ

旭鉄工ではIoTシステムの導入と毎朝の会議による改善を実施した結果、年間で2億円以上の労務費が減少している。当初予定していた設備の導入も不要となったため、4億円以上の設備投資の削減にもつながった。

これだけでも抜群の費用対効果が生まれていることは明らかだが、効果は経費削減や生産効率アップにとどまらない。

「課題の『見える化』にコストがかからなくなった分、社員たちが自発的に『どうしたらより良い現場にできるのか』を考えて議論するようになりましたね。

また、今月はこの改善によってこれだけ生産効率がアップしました、と報告する紙がかわいいイラスト付きで貼ってあったりするんです。現場の社員が、自発的にこういう行動をとってくれた。

仕事を楽しんでいることが伝わってきたので、私もうれしくなり写真を撮ってFacebookにアップしたら、社員も喜んでくれて。また翌月『社長、今月もまたイラスト描いて貼っておきました』と報告しに来てくれました。他にも、社内で使っているコミュニケーションツールで改善の状況をこまめに共有するようにしています。

少しずつ『やらなくてはならない』だった生産管理が『やりたい』に変化してきている。現場のモチベーションが格段に上がりましたね」

他にも集中的に取り組む事項を貼り出したボードの前で議論したり、過去の施策と結果を全てストックしたデータベースを元に改善方法を考えたりと、データを自動で収集できているために余裕が生まれているようだ。そうなると、自分の頭で「今、自分ができること」を考えて行動に移すようになる。

IoTシステムの導入は改善のための手段であって、目的ではない。業務の効率化を図ることが、現場でこれまで発揮されてこなかった能力を引き出すきっかけとなっているようだ。

日本の中小企業が持つ可能性に光を当てたい

「この技術を他の会社にも活用できるかもしれない」と考えて立ち上げたのが、IoTによるモニタリングの販売と普及を手がけるi Smart Technologiesである。2019年6月までに180社が試験的に導入しており、そのうち80%以上が中小企業だ。

旭鉄工ではこの技術をタイの現地法人にも導入し、国内と同様に毎日の会議を重ねながら改善に努めている。今後は海外展開も視野に入れながら、まずは国内での導入を増やすことに注力していきたいと木村氏は話す。

とはいえ、外販をスタートさせてからのほうがデータの欠損や受信機のダウンなど、自社では発生しなかった予期せぬトラブルに悩まされた時期もあったそうだ。それでも国内での普及を重視する理由とはどこにあるのだろうか。

「海外に比べて日本の生産性は低いと言われることがありますが、私はそんなことはないと思っているんです。今まで改善経験のない中小企業が改善に本腰を入れたら、生産性が2倍に上がってもおかしくありません。

トヨタに在籍中の東日本大震災直後、南相馬にある部品メーカーに1ヶ月出張していたことがあります。震災直後で当然あちこちの設備が止まっていて、現場は混乱。私はそこで問題の見える化に取り組みました。

そうしたらメーカーの方々が毎朝自発的に『どうしたらもっと良くなるのか』を話し合うようになって、1ヶ月後には生産ラインが元通りに稼働したんです。このときの経験が、現場にはまだまだ発揮されていないパワーが眠っていると確信した私の原体験になっています。

私は、現場の力をもっと引き出していきたい。そのために、人が担わなくてもいい作業は機械に任せて、人間にしかできない仕事に集中したほうがいいと思います。だって、人は本来もっともっと価値を発揮できる力を持っているはずだから」

日本の中小企業は、そしてそこで働く人々は、まだまだ可能性を秘めている。後継者不足や海外からの安価な商品の流入によって何かと悲観されがちな日本のモノづくりの未来に、木村氏は希望を見出していた。

 

文:菊池百合子 編集:吹原紗矢佳 撮影:山口タクト

フリーランスの編集者・ライター。1995年神奈川県生まれ。大学在学中からウェブメディアやメールマガジンのライターを始める。ウェブメディア「灯台もと暮らし」の編集長アシスタントを経て独立。2018年から滋賀県長浜市で活動を開始、東京との二拠点居住中。関心のあるテーマは、地域での暮らしと人生の選択肢。

Yuriko Kikuchi

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